適期収穫

 三晩寝ても風邪はなかなか良くならない。苦肉の策で解熱剤を飲んだものの普段はほぼ薬を摂らない身体が受け付けないのか、夜中ヌルヌルとした変な汗と悪寒を繰り返す。翌夕、フラフラの身体を引きずって畑へ。成長の速い果菜類を中心に収穫をする。

なんで、こんな体調の時にまで、そこまでして収穫をするのか?不思議ですか?

お金の為?いえ、違います。勿論、ゼロではないけれど、お金の為だけなら心置きなく放置します。

 

果菜類(実の成る野菜)は、未熟な幼果を食べるモノが多いです。成長も早く、収穫適期を逃すと固くなり食べられなく(美味しくなく)なります。

僕は百姓だから人に食べてもらうために野菜の世話をします。そして、野菜たちもひとに食べてもらいたいと思って育っています。

ホントに? お前に野菜の気持ちが判るのか?そう思われるかも知れません。けれど『食べてもらうことが幸せ』は自然界のなかでは、極当たり前のありふれた感情ではないかと、僕は思っています。

野菜達の美味しい瞬間を、できうる限りちゃんとひとの口に届ける事が僕と野菜達との約束なのです。

 

 それから、もひとつ大きな理由が株に大きな実を付けたまま放置してしまうと樹(株)をすごく弱らせてしまうからです。

種を作る。子供を育てる。って、野菜たちにとっても本当にたいへんな事なのです。『子孫を残す』は生命の最重要命題。だから、一番大切な種(果)を育てることに全精力を注いじゃう。実が大きくなればなるほどエネルギーを吸いとられて本体は弱ります。それを防ぐためにも適期の収穫は重要です。

お客さんにとっては、茄子は只の食材です。けれど、僕にとっては、種から一緒に頑張って大きくなってきた子供みたいな関係なのです。ちょっとでも元気に長生きして、自分達が生まれてきた訳『ひとに美味しく食べてもらう』を完遂させてあげたいのです。

だから、ふらふらしながらも収穫をします。

ただ、このままでは僕の方が先に終了してしまいそうな予感もしますが…

はい。ちゃんと寝て 風邪治します。